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米原万理さん、松岡佑子さん。

2019年8月25日

ロシア語圏に関連した仕事で起業している、というと、必ず聞かれることがあります。

「米原万理さんってご存知ですか」

そう、「不実な美女か貞淑な醜女か」「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」等、ユニークで知的でこれまで誰も書き上げたことのない、通訳者にしてみればバイブルのような作品をお書きになられたロシア語同時通訳者。2006年に亡くなられた今も、決して色褪せない存在感を放ち続けてらっしゃいます。

 

しかし、米原さんが素晴らしいのは、そのお人柄もなのです。

大学4年生の頃、米原さんが私の在籍していた大学に講義にいらしたことがありました。ロシアと関わる仕事を探していたものの、その数は殆どなく、女性ということで採用を断られたこともありました。性別による理不尽というものは本人に原因はないのに、何故こんな扱われ方をするわけ?初めての社会の不条理に直面していた時期です。(しかし今思えば、私は『理想に燃えてるだけの面倒くさいねーちゃん』だったのですが)

思い切って、講義の後、廊下を歩いてお帰りになる米原さんに声をかけました。

 

「先生、あたし、ロシア語通訳になりたいんです。どうしたらいいですか」

 

米原さんは、ふむ、といった顔つきで一言仰いました。「あなた、勉強は好き?」そう、通訳者は一旦職業人生が始まれば、その分野の勉強に終始します。それに耐えられるかということでした。さらに米原さんは、非常に真摯に迷える若者に助言を下さり、いくつかの大変有益で、他の通訳者からは、その後も助言されることのなかったアドバイスを下さったのです。

 

また、あの「ハリー・ポッター」シリーズを翻訳された松岡佑子さん。日本中の人が知る通訳・翻訳者のお一人です。20代の後半、松岡さんにもお目にかかる機会がありました。ロシアの放送局に勤め、不景気の只中の日本に帰国したものの、私の職業人生は相変わらず迷走していました。日本は、基本的にロシアに肯定的関心がないのです。従ってロシアに精通した人々への需要も少ないのです。

 

この先どうしていいか分からない、ということを相談すると、松岡さんは仰いました。

 

「あなたが英語通訳をやって行きたいなら、飽和状態だから、今すぐやめたほうがいい、と言いますが、ロシア語ならまだ市場に入る余地があります。とにかく10年やってみて。それから決断したって遅くない」

 

おそらく松岡さんも様々に思い悩まれる日があったのでしょう。このアドバイスは、力がこもり、迷えるアラサーだった私自身を奮い立たせました。若い頃の10年は、大変長いもので、1世紀にも感じられます。時間の風化に耐える生き様を見せよ、というメッセージは、15年以上経った今でも、波の様にくりかえし思い出されるのです。

 

さて、弊社にも素晴らしい同時通訳者の方々が在籍して下さることになりました。時の風化に耐え、ここまでやってこられたプロフェッショナルです。ぜひ、弊社の熟練の同時通訳者の方々に、皆様のプロジェクトを御手伝いさせて下さい。

 

 

 

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