追悼 安倍晋三元総理 日ロ関係の分岐点で
2022年7月15日
安倍元総理が亡くなられたことは、日露関係においてもウクライナ侵攻に次ぐ打撃としかいいようがない。
元総理の政治手法には、大きな批判と犠牲が伴ったことは周知の事実であるにせよ、ここまでロシアとの関係改善に踏み込んだ政治家はいなかった。政治家は、弁が立つだけでは務まらない。決断力と実行力のある者こそ、優れた政治家であるように思う。実際は資金力や人脈と言ったものが幅を利かすのだが、こと政治においては、決断力と実行力のない者は政治家を名乗る資格はない。その点、安倍元総理のとった、ロシアへのアプローチは大胆であり、日中・日朝関係を含む北東アジアの未来と我が国の在り方を見据えた極めて正当な作戦であった。
今は鬼籍に入った、ある大物政治家は、代々ソ連・ロシアとのつながりが深く、私はその事務所に出入りしていたことがある。ロシア側の招待でモスクワに赴いたとき、ロシア側は安倍総理をロシアに招くことを打診してきた。しかし、大物であればあるほど、伝書鳩の役割を担いたがらない。当時、党の中ではロシアに触るのはこの議員の役割であり、他の議員たちが出る幕などなかった。モスクワでの話は進展しなかった。この政治家が病死したのち、たまさかのことであったのか、安倍元総理の対ロ交渉は、スピードを上げたような印象があった。
私の個人的職業人生において、安倍元総理の印象は強い。一度、あるロシア人医師の陳情の件で、総理官邸に通訳として訪れたことがある。華のある方で、厚い掌で握手をして下さった。数分の陳情が終わると、風のように去っていき、我々は日本一厳重な警備のルートで、また外に出された。この陳情は非公式のルートで行われ、内心総理大臣が会うはずはないと思っていたのだが、とりあえず面会に応じる姿勢は、我々一同驚いたのだった。
2016年の山口県での日露首脳会談も思い出深い。あの日、ロシア大統領の着陸と離陸のため、宇部空港で保安担当通訳の仕事をしていた。どこから現われ出たのか、ロシア大使館や総領事館の職員も大勢、同様に空港に集まり、彼らも(我々同様に)今か今かとロシア大統領の到着を待っていた。外交関係の進展を期待した、あの開放的で明るい朝のような空気はこれまで感じたことがなかった。日露関係はドラスティックに変わる、そう確信させた。今顧みれば、我々は、天からの最後の恵みともいうべき順風と幸運のさなかにあったのだろう。ロシア大統領のSPはとても親切で、感じの良い人々であった。我々は、肩を抱き合って笑顔で写真を撮った。別れ際にこっそりくれた2017年のカレンダーとウォッカは、まだ大事にしまってある。
容疑者(彼にもまた様々な苦しみがあったことが痛ましい)は、おそらく、長崎の伊藤市長銃撃事件の様に、殺人、公職選挙法違反、銃刀法違反、火薬取扱法違反の罪と、今回は武器等製造法違反の罪で無期懲役という結論に至るのだろうか。
多くの議員が「先生の遺志を継いで」などと言うだろう。しかしそれは実現されない。どのような大物政治家の死であっても、その遺志を100%継ぐ人間は、ほぼ現れない。政治家の死は、力の終わりだ。時の流れと共に忘れ去られていくのが、残酷なようだが、世間というものである。その意味で、今回失われたすべてのものは、筆舌に尽くしがたい大きさを持っている。今、我々多くの日露関係に携わった者たちは、喪失の中に在る。
株式会社日露サービス
代表取締役社長
野口久美子
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