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ロシア企業で働く

2017年6月3日

 私が新卒で入社した会社は、ハバロフスクにあるロシア国営ラジオ放送局でした。放送局のオーナーはロシア政府、局長以下、幹部は全員ロシア国民。外国向け放送局として始まったのは1940年代で、当初この組織は対ドイツプロパガンダ放送局でした。私が在籍した頃は、日本課、コリア課、中国課が毎日2時間程度の番組をそれぞれの言語で放送していたのです。「当局」が練りに練ったロシアの良いニュースを流すと言う仕組み。

 

 今でこそ、東京の片隅で、コンサルティングやら通訳やらをひっそり営んでいる訳ですが、ここでの経験はその後の職業人生に大きな影響を与える時間となりました。ロシア企業で勤務し、後々とても勉強になったのは次にあげる3点です。

 

その1 言語が出来すぎて、損をすることはひとつもない
 

 よく、英語(その他外国語)はツールに過ぎないから、他にも専門がなくては等と言いますが、まずその言語でネイティヴ・スピーカーにガイジン扱いされないレベルになって、初めて言えることです。外国語が全く出来ない人にこれを言う資格はありません。

 当時の仕事は日本語アナウンスとロシア語のニュースを日本語で原稿にすることでした。助詞ひとつでニュアンスが変わること、この単語を使ったほうがニュースとして適切であること、ニュースの日本語と会話の日本語の明確な違い…これをロシア語話者である番組スタッフに拙いロシア語で理解してもらうのは、本当に至難の業でした。いまでこそ、やんわりと相手のミスを指摘したり、失礼にならないビジネスのロシア語表現は使えます。ちょっとしたある表現を使うことで、ロシア語話者に失礼なく、事態を変えさせることができた、というのはよくあります。

 言語が出来なくて損をすることはあっても、出来すぎて損をすることは、全くありません。

 

 

その2 「すみません」の一言

 

 日本人はよく謝りすぎる、と言われます。すみません、申し訳御座いません、一日のうちで一度も使わない人の方が珍しいかもしれません。何かして頂いたら「ありがとうございます」より「すみません」の方が口をついてでてくることも…。

 外国語でも謝ってばかりでは、おかしいといえばおかしいのですが、ビジネスでは別。謝られて、嬉しくない人はいません。
スタジオのニュースの録音で(グズなことに)躓いたら、オぺーレーターに大きく手でバツ印をだし、笑顔で「すみません!ストップして下さい」。ニュース翻訳を間違えたら、慈善団体のバザーで焼き菓子を売るおばあさんのように、とにかく罪なく笑顔で「まあ…申し訳御座いません。私の語学力が足りなくて…」。最初は驚かれますが、さすが日本人、謙虚だと評判アップ間違いナシ。
「あんたの指示がトロいから、タイミングが計れないのよ!」「ロシア語が難しすぎるのよ!簡潔にまとめて」などど絶対に言ってはいけない…。

 感謝と謝罪は、ロシアに限らず、どの国でも人間関係において大きな役割を果たします。

 

その3 寛大であれ
 

 ロシアのルールに則り運営される組織では、自分の思い通りにならない事が殆どでした。時の厳しい経済状況もあり、彼らは私に出来る限りの好条件を用意し、できるだけ外国人職員に不便のないように取り計らってくれていました。見えない人々の協力や援助で、成り立っていた仕事でした。その一方で、給与の遅配や、外出の制限、家に泥棒に入られたり。ストレスはストレスでした。
 しかし、ここが大事、それを寛大に大きく受け止めることです。日本を離れたら、もうマイルールはなし。優雅にかつ寛大に、その社会での生活を受け止め、寄り添うしかありません。
常々思うのですが、グローバリゼーションとは外国語運用能力も大事ですが、まず異文化に対する寛大さに尽きます。異文化に対する寛大さを有する人間とは、自国の文化に誇りを持ち、素直に肯定できる人でしょう。異文化を羨ましがる、蔑む視点とは無縁です。
 

 もし機会があれば、外国企業で正社員で働く経験をもつことをお勧めします。
厳しい経験ですが、その国の人々からお客様扱いされずに暮らせるのは、とて楽しく、人生を豊かにします。

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