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寄稿 NPO法人日ロ交流協会

2022年1月31日

 

NPO法人日ロ交流協会機関紙「日ロ交流」318号(2022年2月1日発行)にエッセイ「楽しい防災訓練」を寄稿させて頂きました。御一読頂けましたら幸甚に存じます。ちなみに上の写真が、当時のマリアム中尉です。
 
株式会社日露サービス
代表取締役社長
野口久美子

 
(以下転載)
 
「楽しい防災訓練」
 

「君たち、ここのひと?」

私とマリアムは振り返った。若いアジア系の男性が赤ワイン片手ににっこり。「私はアルメニア非常事態省救助庁の中尉よ、マリアム。よろしく。彼女は」「わかった、キルギスだ」「…日本人です!」

 

 ここはアルメニアのエレヴァン。NATOがなぜかロシアの庭の筈の旧ソ連国家で「災害対応訓練」をやっているのだ(当時)。私はオブザーバーで参加した。エレヴァン市内のホテルの宴会場で、まずは明日の「災害対応訓練」に備え、パーティが催された。ケーキと紅茶にアルメニアワイン、という女子会のようなメニューには驚きだ。この男性は、アルメニアワインですっかり上機嫌なカザフ人のNATO職員。「君たち、今度ブリュッセルに来たら連絡してよ、案内するよ」ブリュッセルにはNATO本部がある。

 

 ど甘いケーキにかじりついてると、マリアムは会場の片すみの男性を目で指し示した。「誰?」「ロシアよ、彼らもオブザーバーで来てるのよ」「そうなの!?」「そりゃそうよ、アルメニアは旧ソ連だよ、当然参加ね。それより明日は早いから寝坊しないでね!」ちなみにマリアムは、父親がロシア人だ。

 

 翌朝6時、マリアムにバスに押し込まれ、エレヴァン郊外へ。ここで超グローバルな災害対応訓練の様子を拝見するのだ。照り付ける太陽の下、何もない郊外にポツンとたたずむ古い建設途上のビルの前で、消防車や消防隊員風の人々がいる。なんと、このビルはソ連時代に作りかけのまま放置されたホテル。「火災消火訓練を始めます」アナウンスが流れて暫くすると、廃墟のホテルから薄く煙が上がった。「今、火災が起こりました。消防隊が消火を始めます」消防車が放水を始めた。被害者役を乗せた担架をさっと持ち上げ、救急隊員が敏捷に走っていく。「皆さん!被害者が我々の救助隊により救出されました~!」

 

 隣の女性がブツブツ文句を言っている。「言語は?被害者が外国人達ならこんなすんなり行くわけない」うーん、確かに…。多国籍イベントならではの意見だろう。

 

 いかにも訓練然とした訓練の後は、お待ちかねのランチタイム。マリアムとビュッフェテントに飛び込んだ。多国籍な人が集まる訓練なので、万人向けの料理がズラリと並ぶ。どこの料理とも言えないが美味しいシチューや、ラザニア風の料理。組織が組織なので、炭水化物やたんぱく質が多めな気がする。味付けもしっかり。これがNATOメシ!「なかなか美味しいね~」とマリアムもがっついている。天気も良いし、皆一様に楽しそうだ。

 

 2022年の今日振り返ると誠に意外でしかないのだが、防災訓練とはいえ、このような旧東西の集う楽しい牧歌的イベントが、かつてはあったのだ。昨今の世界情勢を鑑みれば、日露関係を常に友好的に注視する我々に、今出来る事はなにか。それは今まで通り、各々の出来る範囲でロシアとの交流を途切れさせないことに尽きるのではないか。

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