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北朝鮮人との邂逅

2017年12月20日

ロシアのとある町はずれにある、工場の視察をした。
対応してくれた社長は、なかなか気持ちのいい人で、感じのいいロシア人だった。写真を撮ってもいいかと尋ねると、
この工場はいいけれど、敷地奥の建設中の新工場は遠慮してくれと言う。

小さいけれど、地元の産業に密着した感じの、ロシアの地方都市によくありそうな工場だった。
生産現場を案内されながら歩いていると、中国からの出稼ぎ労働者、ほぼ100%若い男性だったのだが、彼らがロシア語で私達にこんにちは、こんにちは、と気持ちよく挨拶をしてくれた。素朴な若者たちは、ロシア人女性の指示に従い、背をかがめて作業をしている。

「中国からワーカーを連れてきてるんですね」
「…いや、北朝鮮なんだ…」
「ええええ!!」
「そんなに驚かないで下さいよ、彼ら、とても仕事の腕がいいんです。彼らなしにはこの工場は成り立たない。仕事も早いし細かいし。
ロシア人使ってたら、いつまでたっても終わりませんよ…」
けろりとはしてるものの、どこか悪びれた風に、社長は弁解した。彼の背後、遠くに黒髪の若者たちが作業をしている。

あれは8月だった。札幌に出張していたある朝、Jアラートが鳴り、北朝鮮がミサイルを発射したと携帯電話にメールが入った。
いきなり言われても、ミサイルはものの10分で日本に届く。寝起きの頭で、着替えはするものの、朝の10分とミサイルが届く10分は
あっという間としか言いようがない。この寝起きの顔で、あたしは死ぬんだ…。考えたのはそれだけだった。

あの8月の朝の、何とも言えない、いやあな気持ちが蘇り、思わず社長に入国管理官よろしく尋問攻め。
「給与は、まさか北朝鮮政府に支払ってるんじゃないでしょうね?集金係のボスがいるんでしょ?」
「まさか!個人に手渡しですよ」
「あなた朝鮮語話せるの?どーやって彼らとコミュニケートしてるのよ?」
「片言のロシア語ですよ…」
「うっそー、ロシア語、あんなに難しいのに?連れた来られたワーカーがすぐ話すの?ここで?」
「ううう、マダム…食らいつきますね…」
尋問攻めにして明らかになったのは、携帯電話まで貸してやっており、ある一定の作業をさせたらすぐ帰国させているという。
給与も破格に安いのだろう、とにかく重宝しているんだの一点張り。非公式ルートで雇っているので、とにかく秘密だという。

「彼らだって、あの国に生まれたから、一生しがない労働者さ。でも、もしロシアに生まれていたら?車も携帯も持って、自由に生きていたはずですよ。気の毒な人々なんですよ」

社長と私のやり取りを聞いていたのかいないのか、帰り道、すれ違う「北朝鮮人」は、こんにちはあ、こんにちはあと無邪気に声をかけてくる。ためらいがちに、さよなら、と手を振ると、恥ずかしそうに微笑む、それはそれは質素な若者が、祖国でどのような生活をしているのか、私には想像がつかない。おそらく、ロシア国内にこのような北朝鮮人は相当いたのだろう。束の間の「異国」に彼らは何を思うのだろうか。

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